日本における相続税の計算は大変複雑です。あまり聞き慣れない言葉に特別受益の持ち戻しというものがあります。これはどのような内容なのでしょうか。
• 特別受益とは何か
相続人が複数いる場合には遺産分割協議のなかで、それぞれの相続人が被相続族人の遺産をどれだけ相続するのかを話し合う事になります。相続で発生する揉め事の多くは、この相続分がどれだけになるかという事です。
相続人のうち結婚資金やマイホームの建築資金などを、相続が発生する前に被相続人から援助を受けていたという者がいる場合にはこれらを考慮に入れなければ相続人間で不公平という意見が出て揉める原因となることが多くあります。
このような被相続人から生前の贈与や遺贈によって受け取った利益を特別受益といいます。
特別受益には、結婚や養子縁組の資金、子供が独立した後に生活資金として渡した金銭など遺産の前渡しと見做されるものや、被相続人が特定の財産を特定の相続人に渡すために遺贈という形式をとった場合に相続以外の方法によって遺産を渡すと見做されるものが該当します。
そして、上記のような不公平がなくなる様に遺産分割において特別受益については持ち戻しと呼ばれる計算が行われる事となります。
• 持ち戻し
相続発生前3年に遡って行われた贈与は相続税の対象となる遺産に含まれます。
したがって3年以上前に行われた贈与は法律的な不備、問題が無い限り相続税の対象となる財産から切り離されることになります。
しかし、相続人の間での遺産分割となると特別受益を受けた者が共同相続人の中にいる場合には、当該特別受益に係る財産は相続開始から期限の定めなく遡って相続財産に加えることになります。
この特別受益に係る財産を相続財産として加えることを特別受益の持ち戻しといいます。
• 持ち戻しを行う理由
相続税の計算においては特別受益であっても相続税の対象となる遺産は、相続の発生前3年に限られることになりますが、遺産分割となると期限の定めなく遡って特別受益の持ち戻しが行われるのは何故でしょうか。
この特別受益の持ち戻しは共同相続人の間での公平、平等の実現の観点から行われるものです。
特別受益に係る財産の持ち戻しによって遺産分割の対象となる遺産は増える事となります。特別受益の持ち戻しは贈与を受けた財産を実際に戻し入れる訳ではなく、計算の上で行うことですから、すなわち相続の発生する前に遺産の前払いとなるような贈与などを受けていた場合には、当該贈与はすでに受け取った相続分となります。
このようにして特別受益を受けていた者は新たに受け取る相続分は減ることとなり、持ち戻しによって共同相続人間の公平が図られるという訳です。