不動産の競売による落札価格は、一般市場における相場価格の7~8割程度の水準になることが多いと言われます。金融機関は、債権を回収するために不動産競売の申立てを行うのですが、なぜ安い金額となってしまっても競売による売却を行うのでしょうか。
不動産競売の目的
金融機関が住宅ローンなどで融資を行う際には、融資の対象となる土地と建物に抵当権の設定を行います。この抵当権は担保権であり、債務者が返済できなくなった場合には、担保とした不動産を強制的に売却し、この売却金額を返済にあてることができる権利です。
したがって債権者が抵当権を実行し、不動産競売の申立てを行うことの目的は、貸したお金を返してもらうことなのです。
抵当権の実行の要件
担保権として抵当権を設定したからといって、抵当権の実行を際限なく認めてしまうと債務者は安心して家に住み続けることができません。このため抵当権の実行のためには、次の3つの要件を満たすことが必要となります。
抵当権の存在
抵当権が有効であることが必要なため、競売の申立てを行う際に抵当証券などの提出が求められます。
被担保債権の存在
抵当権実行の目的は、被担保債権すなわち貸したお金の弁済を受けることであるから、その債権が存在していることが必要となります。
被担保債権の履行遅滞
期限までの弁済がなされなかったことや、期限の利益が失われ履行遅滞となっていることが必要です。
したがって返済が行われていれば抵当権が実行されることはありません。
なぜ不動産競売によって債権回収を図るのか
金融機関は債権回収を行う訳ですから、基本的には「少しでも早く」、「少しでも多く」回収をしたいというのが本音のはずです。そこを一般的な売買よりも時間が掛かり、売却金額も一般の相場よりも低くなる不動産競売によって債権回収を図るのは何故なのでしょうか。
まず、不動産競売が民事執行法に基づいて行われるものであるということが挙げられます。抵当権の設定から不動産競売の実行まで公的に保証されているということは、債権を持つ者にとって安心できるシステムなのです。次に債権回収に動いたときに抵当権を実行し、不動産競売の申立てを行えば、後は裁判所で売却まで行ってくれるというところです。
金融機関にとって、売却に協力的かどうかも分からない債務者と連絡を取って一般市場で売却を行うよりも、公権力によって売却してしまうほうが少ない回収金額になったとしても手間が掛からず、無駄が少ないと考えているのです。
したがって、債務者が売却に積極的に動くのであれば、売却金額が高くなる任意売却に協力的になるのは債権者側に手間が掛からないからなのです。任意売却を選択するのであれば、金融機関にとってもメリットのある話ですから、臆することなく相談、交渉に向かいましょう。