賃貸物件として使われていた建物を、借主がいる状態で競売により取得した場合、借主が前の所有者に預けていた敷金や保証金など(以下預託金という)を、退去する時に返すようにいわれたら、競落人はその時どうすべきなのかを今回はみていきましょう。
■預託金もケースにより異なる
不動産における預託金とは、敷金・保証金といった賃貸借契約の際に、借主が貸主に一定の金額を無利息で預け入れる金銭のことをいい、法律的には借主が退去する際に入居中に発生した借主が、貸主に対して支払わなければならない金額の担保とされています。
競売において預託金がどのように承継されるかというと、それぞれのケースによって異なります。
◎敷金:賃貸借契約締結前に当該不動産(マンションやアパート)に、抵当権が設定されていることが前提となります。抵当権設定登記がされた建物について、平成16年4月1日以降に賃貸借契約を締結して、引渡しを受けていた場合で、抵当権の実行によって競落人が新たに当該建物の所有者になった場合には、競落人である新たな所有者は賃貸借契約を承継する義務はないことから、新しい貸主は敷金返還義務を負いません。
◎保証金:保証金には、敷金と同様の性質を有する場合と、建物明け渡し時に保証金の一部を償却するとして契約を締結する場合(消費貸借)があるといわれています。その区別については、保証金の金額・保証金授受の趣旨・近隣の敷金相場などを、総合的に考慮して判断されます。
保証金が、消費貸借の性質を有する場合は、その返還義務は競落人に承継されません。
このように、競売による買受人に対抗できない借主は、その買受人が賃貸借を承継しない限り、買受人に敷金等の返還を請求することはできません。
逆に、新所有者が貸主の地位を旧所有者から承継した場合、旧所有者に差し入れられていた敷金は競落の場合、貸主の地位を承継することとなり新所有者に移転されるのです。
■まとめ
前記したことをまとめると
◎平成16年4月1日以降に賃貸借契約を結んだ借主
◎賃貸借契約を結んだ時点ですでに抵当権が設定されていた場合
◎その抵当権の実行により競売で所有者が変わった
この、すべてのケースに当てはまる借主でない限り敷金の返還請求をすることができない。ということになります。
入居者がいる物件を競落して後に、トラブルになることはよくあることです。仮にそのようなトラブルに巻き込まれた場合は、以上のような点をふまえ、競売に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。
不動産のことに関して何か疑問や困りごとがありましたら、お気軽に「アブローズ」までご相談ください。