競売では、買受人が落札物件の代金を納付した時点で、実質的に所有権が債務者から買受人に移転します。
新たな所有者となった買受人は、裁判所に物件の明け渡し請求を申し立てることができますが、一定の場合には、競売物件の居住者に明け渡し猶予が認められるケースがあります。
■立ち退きまでの流れ
競売では買受人が代金を納付した時点で、実質的に所有権が移転する事となります。
代金を支払った買受人は、すぐに裁判所に不動産引渡命令を申し立てることができます。
概ね2週間後には不動産引渡命令が確定し、買受人は強制執行の申し立てを行うことが可能となります。
2週間程度すると強制執行の手続きに入り、催告といって競売物件の居住者に対して1カ月後に立ち退きの強制執行の断行について予告し、当該期間内に退去していなければ強制的に立ち退かせる事になります。
従って、買受人の代金納付から粘っても2カ月後には物件を明け渡す必要が生じます。
■賃借人の場合
競売物件に住んでいるのが賃借人の場合には、明け渡し猶予制度が適用になります。
競売の手続きが開始される前から賃貸借している者を保護するためです。
このケースに該当する賃借人に対しては、買受人は代金納付から6カ月経過するまで不動産引渡請求を申し立てることが出来ません。
しかし、賃借人は、猶予期間は買受人に家賃などを支払わなければならず、支払わない場合には明け渡しの猶予は取り消される事となります。
また、競売の手続き開始後に賃貸借契約を締結して占有を始めた賃借人についても6カ月の明け渡し猶予は認められず、買受人は代金納付後すぐに不動産引渡命令を裁判所に申し立てることができます。
■賃借人の保護
このような明け渡しについての猶予制度は、競売となることを予期していなかった賃借人を保護するためのものです。
もし、このような賃借人の保護がなされない場合には、抵当権などが設定された物件では借り手が付かなくなってしまいます。
こうなると投資ローンなどを利用して購入した物件などは、そもそも賃貸経営ができなくなります。
競売の手続きが開始された物件についての賃借人は、例え賃借人が競売の手続きが開始されていることを知らなかったとしても、明け渡しの猶予を受けることは出来ません。
一方で、抵当権が設定される前からの賃借人は明け渡しの猶予制度とは関係なく、賃借人としての立場が保護されますので、買受人に対して従来と同様の賃借権を主張することができます。
このように競売における物件の明け渡しは、居住者のパターンによって取り扱いが異なりますので、事前に確認することが大切です。