相続権の有無などが裁判で争われる事となった場合に、要件事実という言葉が使われることになりますが、この要件事実は一体何を意味するのでしょうか。
要件事実とは何か
要件事実という言葉はあまり耳にすることが無いと思います。
要件事実は一般的な言葉ではなく、裁判などで使用される言葉であり、法律の専門家であっても裁判などを担当しない限りは、あまり縁がない言葉のようです。
相続について定められた民法を始め、一定の法律効果が発生するためには、その発生に足るだけの法律要件が満たされていることが必要になります。
法律要件という言葉は抽象的で把握しにくいものですが、現実世界においてその法律効果の発生を認めるために、法律要件を具体的な事実に当て嵌めることが必要となります。
すなわち要件事実とは、法律要件を満たす現実世界で発生した事実のことを意味するのです。
相続の裁判における要件事実
原告が自身に相続の権利があることを裁判で争う場合、要件事実が法律要件を満たす現実世界で発生した事実のことを指すのであれば、相続の要件事実として「被相続人の死亡」と「原告が相続人であること」を主張する事となります。
この要件事実である2点を、原告が証明することで相続権の存在が明らかになるという訳です。
この時、原告以外の相続人の存否について主張する必要性の有無が問題になりますが、実務上において、原告は相続人であることのみを証明すれば良く、他の相続人の存在は抗弁として扱われます。
立場によって変わる要件事実
相続の争いにおいて原告が要件事実として主張するべき事実は、その立場によって変わることになります。
例えば原告が被相続人の子又は配偶者であれば、要件事実として被相続人の死亡の事実と、原告が被相続人の子又は配偶者であることを証明すれば良いことになります。
この時、他に相続人が存在していたとしても、原告の相続分に影響はあるものの原告が相続人であるという事実に影響はないためです。
しかし、原告が被相続人の父母である場合には主張する内容が変わってきます。
被相続人の父母が相続人となるには、父母よりも優先順位の高い相続人が存在しないことを証明しなければならないためです。
このため被相続人の死亡の事実、原告が被相続人の父母であることに加えて被相続人に子及びその代襲者が存在しないことを証明しなければなりません。
同様に被相続人の兄弟姉妹が原告となって自身の相続権を主張する場合にも、被相続人に子及びその代襲者と父母などの直系尊属が存在しないことを証明する必要があります。
原告よりも優先順位の高い相続人の存在を抗弁されてしまうと、原告は相続権の存在を主張することが出来なくなります。