裁判所において競売は事件として取り扱われます。この競売事件の総数は、リーマンショックのあおりを受けて倒産件数などが増加した平成21年度と比較すると、現在はその半数以下となっています。
10年も経たないうちにこれだけ急激に減少するのには、理由があるはずです。今回はその理由について追ってみたいと思います。
競売物件の減少
裁判所で取り扱われる競売事件数が減っています。平成21年度に約6万4千件あった事件が、平成27年度には約2万3千件まで減少しています。ひとつの競売事件で取り扱われる不動産はひとつと限らないので、売却単位としてはより多くの物件数が減少していることが推測されます。
競売物件の数が減少しているということは、住宅ローンや借金の返済が困難になってしまった人が減少しているということがイメージされます。
有効求人倍率は平成21年から増加傾向にあり、平成24年には安倍内閣が発足し、アベノミクスが始まって株価も上昇し、緩やかな景気回復が続いていると言われますが、実際のところ競売事件数が半分以下になるまでの景気高揚が起こっているのでしょうか。
景気だけではない競売物件の減少
競売物件数が劇的に減少しているのは、景気が上向きとなったことだけではなく、色々な要因が重なってのことだと考えます。
競売物件数減少の原因のひとつに金融機関の姿勢の軟化が挙げられます。平成21年に中小企業金融円滑化法が施行され、平成25年3月31日に期限を迎えて終了しましたが、金融庁は、金融機関に対し引き続き円滑な資金供給や貸付上演の変更等に努めるべきであるという指導を継続しています。平成28年12月に企業庁から「金融機関における貸付条件の変更等の状況について」が公表されました。
債務者が住宅資金借入者である場合の貸付条件の変更等の申込に対する実行率は、平成21年12月4日から平成28年9月末までの実績では、92.1%となっており、実績数は継続して増加しています。
このように返済条件の変更に対応して貰える人の増加が競売物件の減少にもつながっていると推察されます。
任意売却物件の増加
競売の回避をしたいと考え、任意売却を選択する債務者が増加しているのも大きな要因のひとつです。金融機関が競売ではなく、任意売却を勧めるケースも増えているようです。競売ではなく、任意売却であれば金融庁の指導に反することにはならないという考えもあるかもしれません。
任意売却は、競売よりも高い金額で売却することが可能であり、引越し代金の捻出、引越し期日についても債権者や購入希望者と交渉が可能であることからも競売と比べて債務者のメリットが大きいことも任意売却物件が増加している理由だと考えられます。