マンションなどで競売物件に賃借権に基づく借家人が居る場合に、競売による売却はこの借家人の立場にどのような影響を与えるのでしょうか。
■権利としては弱い賃借権
所有権とは物権の種類のひとつで、物を直接的・排他的に支配する権利のことです。所有権を持つことで他者に対して物に対する支配を主張することができ、他者が勝手に使用している場合などには所有権に基づいて返還を求めることができるのです。
一方、賃借権とは債権の種類のひとつで、人に対して請求できる権利のことです。住宅について賃貸借契約を締結すると、借主は貸主に対して住宅を貸すことを請求することができ、貸主は借主に対して賃貸料を請求することができます。
このように賃借権は相互に債権を持ち合う形となり、基本的に第三者がその関係の中に入ることはできません。
賃借権は債権であるために、物権である所有権よりも弱い権利です。住宅の賃貸借に所有権の絶対性を適用してしまうと、賃借人は所有者の求めに応じていつでも返却しなければならず、安心して生活を送ることができなくなってしまいます。このため借地借家法によって賃借人の立場を保護しているのです。
■競売における賃借権の取り扱い
賃借権に基づく借家人の立場は、競売の実行によりどのような影響を受けるのでしょうか。
借家人の立場は、賃借権と抵当権の設定又は差し押さえの時期の前後により扱いが異なります。賃借権の設定が抵当権の設定や差し押さえよりも先であれば借家人は購入者に賃借権を主張することができ、借家人として居続けることができます。
一方、賃借権の設定が遅れる場合には購入者の求めに応じて退去しなければいけません。ただし、家賃を支払うことで、購入者の買い受け時点から明け渡しまで6カ月間の猶予期間が与えられています。なお、競売手続きの開始後の賃借権の設定をしても猶予期間は認められません。
■賃借権有無の確認方法
裁判所にて作成される3点セットのうちの「物件明細書」に、落札人が負担すべき権利について記載がされていますので、ここで競売物件の賃貸借の権利の状況を確認することができます。なお、物件明細書作成後に賃貸借契約が締結される場合もあり、当然ですがこの場合には物件明細書に記載がありませんので注意しましょう。
平成15年の民法改正前までは賃借権の保護が手厚かったため、これを悪用して退去と引き換えに高額な金銭を要求したりするなどして競売を妨害する行為が横行していたことがあります。
このようなリスクがあったことも競売価格が割安である要因のひとつとなっていました。