不動産は全て自用という訳ではなく、アパートや事務所ビルなど他社に賃貸することを前提とした不動産が存在します。
このような賃貸用物件が競売となった場合に賃借権が問題となることが多くあります。
■抵当権設定と賃借権
競売における賃借権の取り扱いは、競売となった物件の抵当権設定登記が行われる以前に賃借権の設定があったかどうかが重要な問題となります。
賃借権の設定すなわち賃貸借契約の日付などが抵当権設定よりも早ければ借地借家法が適用され、落札した買受人に対して賃借人は競売物件について賃借権を主張できるためです。
また、抵当権に基づかない強制競売においては差押が行われる前に賃借権の設定が認められれば同様に賃借権を買受人に対して主張することができます。
■抵当権設定後の賃借権
抵当権設定登記に後れる賃借権の取り扱いについては競売で問題になることが非常に多くありました。
平成15年の民法改正以前は短期賃貸借という制度によって一定の条件を満たす賃借権は保護されていたために、これを悪用する占有者が現れることもあり、一般に広く競売に参加することを阻む要因のひとつでした。
短期賃貸借とは抵当権設定登記に後れた賃借権であっても土地については5年、建物については3年以内の賃貸借であれば、次の更新時期までの間は買受人に賃借権を主張できるというものです。
この制度を利用して競売となる可能性が高い物件に賃借権を設定し、買受人に高い退去料を請求するというような話も当時は多くありました。
しかし、平成15年の民法改正によって短期賃貸借による保護は廃止され、抵当権設定時期に後れる賃借権は全て一律に6カ月間の明け渡し猶予の規定を受けるだけとなりました。
これにより競売の買受人は抵当権設定登記に後れる賃借権に基づく借地人、借家人に対して6カ月の猶予を残し退去を要請できるようになったのです。
■賃貸用物件の競売
競売で賃貸用物件の買受人は、抵当権設定登記に後れる賃借人、差押後の賃借人に対して退去を要請することは出来ます。
しかし、賃貸用物件として落札したのであれば優良な賃借人については新たに賃貸借契約を締結して賃借権を設定することができますし、滞納が多かったり低廉な家賃で入居したりしている賃借人に対しては賃借権を認めないということも可能になりました。
したがって賃借権の取り扱いについては、平成15年以降は競売の買受人の立場が強くなったといえます。
もし、賃借人が存する競売物件の落札検討する場合には抵当権設定時期と賃借人の賃借権設定時期について十分に確認することが大切です。